あがた森魚氏は21世紀も少年だった

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2024/01/22

 

あがた森魚氏は21世紀も少年だった

2023年12月3日、福島市のライブハウスAREA559で開催されたあがた森魚氏コンサート「あがた森魚ライヴ 一千一秒音楽旅行 2023」に行ってきた。振り返ればモリオ氏との出会いは林静一氏の漫画「赤色エレジー」を読んでいたことがきっかけだった。ロマンあふれるノスタルジックな世界観に溺れて40年以上も経ってしまっていた。LP、CDが出るたびにコレクションしてきたが本人に会うのは今回が初めて、ファンとして情けないというか恥ずかしい限りだと思う。

ようやく訪れた初コンタクトの機会、数日前からドキドキ感が止まらない。当日はあいにくの天候だった。日中の雪が小雨に変わった夜、マイコレクションの中から貴重なLPレコード3枚を持ってライブ会場へ向かった。ドアを開けるとアコースティックギターを手にしたモリオ氏が音合わせ中だった。憧れの人が目の前にいる。なんだ、このトキメキは。忘れかけていた新鮮な感覚にクラクラする。リハーサルを見ることができるとは思わなかった。

ハイボールを頼んで席に。ライブが始まった。昔の曲が多くて嬉しい限り、オープニングで早川義夫氏の「サルビアの花」まで歌ってくれるとは。曲の合間にはボブ・ディラン、稲垣足穂、宮沢賢治、宇宙、第六惑星、銀河鉄道、母親から生まれた意義、北海道留萌の黄金岬の美しさ、父親と乗った夜汽車の真っ暗な車窓を見ながらの長い沈黙など〝とりとめのない履歴書〟を話してくれた。なかでも印象深かったのは2001年発売のアルバムタイトルにもなっている「佐藤敬子先生はザンコクな人ですけど」に登場する佐藤先生の思い出。佐藤先生は小樽の入船小学校最初の担任で、ジュール・ヴェルヌ「海底二万哩」ノーチラス号ネモ船長の話を教えてくれたこと、家庭訪問時に「モリオ君は給食の山羊のミルクを飲ませようとしたら私の手を嚙んだんです(獣臭くて嫌いだった)。元気な子ですね」と母親に話したこと、その時母親が出したカレーライスを食べたくなさそうに頬杖ついて食べた姿がカッコよかったことなど思い入れたっぷり。先生が大好きだったんだろうな。また、福島の印象もインパクト十分だった。つげ義春氏の世界に触れようと何度も飯坂温泉を訪れているという。私のベースになっているつげ氏のエピソードが出るとは思わなかった。嬉しかった。

アンコールは「赤色エレジー」「大寒町」、最後はギターの弦が2本切れていた。モリオ氏は1948年9月12日、留萌生まれ。75歳を感じさせない熱い歌声は、ぶれないポリシーとエネルギーに満ち溢れていた。

ライブ後、持っていったLP3枚組限定ボックス「永遠の遠国」(1985年発売)などレコード3枚にサインをしてもらった。当時相当無理して購入した「永遠の遠国」、付録も封を切らずに保存してきたが、さらに永遠の宝物になった。「取り戻せない日々と時間」を一瞬に取り戻せたような気がした。

会場を出ると、まだ小雨が降り続いていた。通りの木々を彩る鮮やかなイルミネーション「光のしずく」が雨をまとい視界がにじむ。冷たい風に現実に戻されると同時にロマンが沁みる。ぶれなかった自身とモリオ氏が交錯した。時代は世紀をまたいだが、心は不変なんだな。

〝20世紀少年〟のモリオ氏は、21世紀も少年のままだった。ファンを続けてきて良かった。


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