ノスタルジーの幻惑、ニューシネマパラダイス

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2021/08/27

ノスタルジーに惑わされ、あふれる涙。映画「ニュー・シネマ・パラダイス」(ジュゼッペ・トルナトーレ監督)

1950年代のシチリア島の広場にある映画館を舞台にした少年トトと映写技師アルフレードの友情を通して描かれる映画愛あふれる物語。初公開版に51分の新たなカットを加えたデジタル・レストア版(1989年イタリア=フランス)を久しぶりに鑑賞した。

深い青々とした海を臨むシチリアの家からトト(サルヴァトーレ)に電話する年老いた母と妹。トト不在で、同居する彼女にアルフレードの葬儀を伝えた。シチリアを離れ30年、サルヴァトーレ(トト)はローマで有名な映画監督となっていた。雷鳴響く雨の夜に帰宅したサルヴァトーレは彼女からアルフレード死去・葬儀の電話のあったことを聞く。サルヴァトーレの顔を照らす雷の光が、映写機から「獅子の口」を通ってスクリーンに投影される光に変わる。シチリア時代の回想が始まる。

石畳の広場に建つ教会を兼ねた映画館は村民の最大の娯楽、交流の場だった。映画は一般公開前に神父が検閲し、キスシーンは全て除かれ上映。キスシーンになると神父はベルを振る。それを合図に映写技師アルフレードがキスシーン部分のフィルムをカットする。いつも満席の映画館、「もう20年以上キスシーン見ていない」「案の定だ」、ラブシーンのないことをわかったうえでの村民のブーイングはいつものお約束だ。フィルムネガのワンカットからセリフを言えるほど映画好きの小学生のトト、映写室に入り込んではアルフレードに追い出され、喧嘩しあいながら交流を深めていく。そんな時、熱に弱いゼラチン製フィルムが映写機の高温で発火し映画館は全焼。火事を食い止めようとしたアルフレードは顔に火を浴び失明してしまう。サッカーくじを当てたナポリ人が映画館を再建、トトはアルフレードの手足となり映写技師に。ここにニューシネマパラダイスが誕生する。

思春期を迎えたトトは同級生のエレナにひとめぼれ、さまざまなアタックの末に恋人となる。幸せな中、トトに兵役の知らせが届く。エレナも引っ越すことに。入隊前日、エレナと映画館で待ち合わせするがエレナは来なかった。募る思いと裏腹に除隊までに1年もかかってしまう。ようやく村に帰った時、エレナは所在不明で映画館には新たな映写技師が。トトの居場所は村になかった。ローマに旅立つことに。

列車を待つホームでアルフレードはトトに言い聞かせる。「村を出たら長い年月帰るな。お前は私より盲目だ。人生はお前が見た映画とは違う」「郷愁(ノスタルジー)に惑わされるな。すべて忘れろ。自分のすることを愛せ。子どもの時、映写室を愛したように」。

30年ぶり村に帰ったトト。葬儀参列者とともに棺を乗せた車の後ろを歩くトト、ニューシネマパラダイスの前を通る。テレビやビデオの普及で6年前に閉館し、近く取り壊され駐車場になるという。「もう映画は夢でしかない」。葬儀後に入ったバーの窓から若いエレナそっくりの女性を見つける。一瞬に30年前にフラッシュバック。その女性を追い掛け家を突き止め電話。電話に出たのは30年後のエレナだった。「会いたい」というトトに、エレナは「会わないほうがいい、さようなら」。海辺の夜の公園で感傷に浸るトトの前に車が止まる。運転していたのはエレナだった。助手席に乗り込み歳を重ねたエレナと初対面。「相変わらずきれいだ」、「もう歳よ」。風に揺れる街灯の光が車内の2人を交互に照らす。

「映画館で会う約束だったのに何も言わずにいなくなった。あれから30年以上だ」、悔やむトトにエレナは言う。「映画館には行ったのよ、少し遅れたけど。アルフレードしかいなかった」。アルフレードに伝言を頼むも「大恋愛もいつかは終わる。炎は灰になる。トトの将来はひとつ」と別れを諭されたという。エレナは諦めきれず壁にあった紙の裏に連絡先の友人の住所を記したメモを残した。「でもあなたは姿を消した」。トトは「ずっと君を夢見てきた。仕事で大成功したが、いつも何かが欠けていた」。

ついに抱き合う2人。30年の時を超えても変わらぬ「愛」、アルフレードの魔法が解けた瞬間だ。海面と車を照らす街灯の光とともに心も揺れ動く。トトはローマに戻る前にエレナに電話する。エレナは「将来はないわ。過去だけよ。昨夜のこともただの夢。素敵な夢。若い時には見なかった夢。あれ以上のフィナーレはないわ」。

トトは取り壊される前の映画館でエレナのメモを探す。破れたスクリーン、積み上げられたシート、埃だらけの床に転がる蜘蛛の巣だらけの「獅子の口」などが荒廃を物語る。映写室の壁に残された膨大なフィルム検査証の中からエレナのメモを発見する。「他の人は愛しません。誓います。私を捨てないで。あなたのエレナ」と書かれていた。メモが残された検査証の映画タイトルは「さすらい」だった。さまよい続けた30年間を暗示するかのよう。村民立ち合いのもと爆破され崩れ落ちる映画館。白煙舞う中にそれぞれの映画愛が見え隠れする。

ローマに戻りアルフレードの形見のフィルムを一人で見るサルヴァトーレ。数多くの映画のカットされたキスシーンだけが紡がれていた。荒れたモノクロ映像、あらゆる「思い」がスクリーンと心に映し出される。FINE。

何度見てもノスタルジーに惑わされてしまう。何度見ても涙が出てしまう。エレナも美しいが、トトの母も美しい。


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