天元台から新高湯温泉へ滑降

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2020/07/07

あふれる風景~新高湯温泉(山形)1985年3月24日

山形県米沢市の奥、標高1100メートルにある新高湯温泉の一軒宿「吾妻屋旅館」、冬は雪に埋もれ車で行くことはできない。車で行けるのは白布温泉の先、天元台スキー場へのロープウェイ白布天元台湯元駅まで。そこから約1キロ歩けば宿に着く。雪の中を上るのは大変、スキーで下ったほうがスムーズだろう。天元台でスキーを楽しんだ後、宿まで滑降するプランを考えた。

午前8時前、湯元駅から天元台スキー場を結ぶロープウェイに乗った。途中、車窓眼下に小さく宿が見える。天元台から新高湯に下るゲレンデはない。乗車中、あの辺りを攻めれば木々に邪魔されず滑れるかなと考えを巡らせた。天元台は絶好のスキー日和、澄み切った青空をバックに遠くの山々まで望めた。半日券1700円で、こぶの少ない縦に長いコースを思う存分楽しんだ。

午後からがメインイベント。さあコースなき斜面を滑って新高湯へ。

ゲレンデの外れに新高湯温泉まで0.8キロの看板を見つけた。「案外近い、楽勝かな」と思い新雪の山に入った。木々を抜け急に視界が開けたので止まったら、すぐ先は崖。視界が開けたのは当然だった。止まらなかったら真っ逆さまに落ちていただろう。危なかった。スキーを外して引き返すことに。一歩ごとに腰近くまで雪に埋まった。担いだスキーも重い。勾配も急、なかなか登れない。考えが甘すぎた…。息も絶え絶え汗だくでスタート地点まで戻り、違うコースにチャレンジ。途中スキー跡を発見。同じ考えの誰かが通ったのだ。ここなら大丈夫か。急斜面を滑って転んで…悪戦苦闘しながら下った。木々の間から眼下に宿が見えた時「助かった」と声に出してしまった。宿の人はコース外の急斜面を下りてきたことには驚かず、「カモシカに会いませんでしたか?」と尋ねてきた。無謀なスキーヤーが日常的にいるのだろう。

露天風呂はまだ深い雪の下、温泉で玄関前の雪を溶かすので露天風呂まで湯がまわらないという。入浴料400円を支払い内湯へ。分厚いヒノキの浴槽に湯がドバドバ注がれている。冬なので少しぬるめ、汗だくの体には適温だった。聞こえるのは湯船に落ちる湯音だけ、雪囲いされた窓から漏れる陽射しが湯気に輝く。眩しさに目を細め、ゆっくり、どっぷり浸かった。

宿に通じる道は除雪作業中、重機が忙しく動いている。ゴールデンウイーク前までには車が通れるようにするという。気が遠くなりそうな雪の量、間に合うのだろうか。スキーを履いて宿から湯元駅まで一気に滑り降りた。すごい達成感、風が気持ちいい。

以前は下から車で、今回は上からスキーで、山峡の秘湯を堪能した。

 

 


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