つげ義春と鄙びた温泉
2020年2月、漫画家つげ義春氏が欧州最大規模の漫画の祭典「アングレーム国際漫画祭」で特別栄誉賞を受賞した。「漫画界のゴダール」と紹介されたらしい。写真で見たつげ氏は久しぶりの表舞台にもかかわらず飾らない服装で、体調も良さそうだった。「ねじ式」の衝撃から約半世紀にも及ぶファンのひとりとして嬉しかった。
これまで、つげ氏の足取りをたどるように鄙びた温泉をめぐってきた。嬉しいニュースに思い出をひとつ。1980年代の冬、漫画「二岐渓谷」舞台となった福島県二岐温泉の湯小屋旅館に宿泊した。犬は出迎えてくれなかったものの漫画通りの外観に感動、老夫婦が出迎えてくれた。部屋は2階「竹林の間」。部屋名の通り、壁いっぱいに竹林の絵が描かれていた。宿の主人が描いたという。これは漫画「枯野の宿」に登場するデッサンが狂った三重塔わきの竹林ではないだろうか。思いがけない出会いにまた感動した。
隣室は「宿場の間」。好奇心を抑えられずに覗いてみると、時代劇に出てきそうな宿場町のお店の様子が描かれていた。またまた感動。このほか、いろいろな場所に漢詩や俳句が飾ってあり主人の博識ぶりがうかがえた。お湯は内湯と川沿いに小さな露天風呂。野趣あふれる温泉に、またまたまた感動、つげファンになって良かった。
当時、雑誌「点灯舎通信」を購読していた。特別号で掲載していただいた読者100名が選ぶつげ義春ベスト5で、私は「紅い花」「リアリズムの宿」「オンドル小屋」「大場電機鍍金工業所」「少年」を挙げた。つげ作品は全て名作、今思えば恥ずかしいピックアップでした。