振り返れば「坂道」
坂道はどこにでもある。当たり前のように上って下ってきた。それが人生。最近、高低差マニアのタモリ氏のテレビ番組などで意識するようになったが、それまでは息を切らしただ通り過ぎていた。今になって思う。坂道は私の人生に多大な影響を与えていた。振り返ると四つの坂道が広がっていた。
それは「神楽坂」「時計坂」「病院坂」「欅坂」。歩んできたそれぞれの時代、坂を上ったところでポンと背中を押された。
【神楽坂】
大学キャンパスは飯田橋にあった。アパートがあった小岩から総武線で約30分、駅から外堀公園を歩いて通学した。18歳春、初の東京一人暮らしを始めた田舎者を外堀の満開の桜が出迎えてくれた。外堀でのサークル新歓コンパ、会津出身というだけで日本酒好きのレッテルを貼られ、ぐいぐい飲まされた。案の定簡単に酔いつぶれ桜の木の下で朝を迎えた。今も桜が美しいのは私の吐いた栄養分が一助になっているのかも。サークル飲み会はいつも神楽坂、行くのは安い焼き鳥屋や居酒屋ばかりで花街は無縁の存在だった。大学4年間で酒の奥深さを学んだ。
神楽坂は晩酌を欠かさない私をつくってくれた。
【病院坂】
横溝正史原作「病院坂の首くくりの家」のタイトルになっている病院坂。映画は1979年公開、耐え難い悲しい運命を背負ったヒロイン佐久間良子の乗った人力車が病院坂をゆっくり下っていくラストシーンが印象的だった。病院坂をはじめ「犬神家の一族」「悪魔の手毬唄」「獄門島」「女王蜂」「八つ墓村」などの金田一耕助シリーズの映画は衝撃的だった。山深い閉鎖的な風景の中で繰り広げられるおどろおどろしい人間模様、何度見ても新しい発見がある。金田一は決して事件を途中で終わらせない。全容をわかっていながら犯人に目的を遂げさせる。ある意味、それが正義のように。
金田一シリーズで思い入れが強いのは「悪魔の手毬唄」。手毬唄の歌詞通りに娘が殺されていく。残虐な裏に隠れているのがヒロインを想う磯川警部の純愛。ヒロイン青池リカ役の岸恵子は悲しくも美しかった。勝手に「鬼首ラブストーリー」と呼んでいる。
病院坂は映画好きの私をつくってくれた。
【時計坂】
漫画家高橋留美子さんの名作「めぞん一刻」に登場する時計坂。古いアパート「一刻館」を舞台にした管理人の音無響子さんと下宿人の五代裕作さんの恋愛物語。1986年から2年間フジテレビでアニメ放映、タイムリーに見ていたことは確かでも毎週録画していたわけではなく細部まで覚えていなかった。
最近パチンコ台で再会した響子さんに改めて心を奪われてしまった。こんなにも可愛かったんだ。名シーンのオンパレード、なかでも「振り向いた惣一郎」のエピソードが素敵です。夕陽の逆光の中で時計坂を上る五代さんと犬の惣一郎さんの後ろ姿を見た響子さん。シルエットに亡き夫がフラッシュバックするものの、街灯が下から徐々に点灯していき五代さんと判明、惣一郎さんがバウと泣いていつもの日常に戻っていく。「坂の途中に愛がある」、純愛物語の最高傑作だろう。
時計坂は浪漫を愛する私をつくってくれた。
【欅坂】
2015年デビューの欅坂46。メッセージ性の強い「サイレントマジョリティー」「不協和音」「ガラスを割れ」「黒い羊」などのシングル曲とセンター平手友梨奈さんのカリスマ性、ドラマチックな激しいパフォーマンスにやられてしまった。平手さんの脱退は寂しい限りです。
欅坂はアイドル好きの私を目覚めさせてくれた。